グラスロ第1回を開催して(下)

前回の続きです。

 

〇大会を開催して思ったこと

 

・みんなレースを待っていた

 

 新聞に掲載していただき参加申し込みが急増するまで、自分が主導して計画した大会がどれだけの人に受け入れてもらえるか、ずっと大きな不安を抱えていました。自分が面白いと思って企画した案が、全く人に見向いてももらえず、当日の参加者が知り合い数名だけ、という悲惨な状況になったら辛すぎるな、とハラハラしていました。社内会議に企画案を提出するビジネスマンはこのようなプレッシャーと日々闘っているのでしょうか。

 

 ですが、蓋を開けてみればキッズは定員50名到達、大人の部は定員100名のところ67名の方にエントリーをいただきました。目標の「出場者150名」には届きませんでしたが、初めての試みということを考慮すれば、およそ8割達成、という状況は出来すぎなくらい上出来だと思っています。

 

 エントリー受付の際の「ご意見・ご要望」記述欄を見ると、

 

 「トラックレース初体験、楽しみにしています」

 「競技したかった!サイコー!」

 「貴重な機会を用意してくれて感謝しています」

 

など、レースを心待ちにしていたランナーの方々の高揚感が伝わってくる記述が多く見られます。自分の企画が独りよがりなものでなかったことが確認できて安心すると共に、「レースに出たい」という欲求が満たされずに悶々としていた方々の願いを叶える役割を務めることへの、嬉しさと責任の重さを感じました。

 

・多くの人々に支えられて

 

 直前までコロナの状況を注視し、対策措置が十分か何度も確認を繰り返しました。大会当日の運営の流れのリハーサルを頭の中で繰り返し、迎えた大会当日。多くの運営ボランティアの方々にご協力いただき、大きなトラブルなくスムーズに運営を進行することができました。

 

 細部まで気を回せていない自分に代わって、高校の先輩方や陸上競技が好きでお手伝いに来てくださった方が、よりスムーズかつ面白く大会を運営するアイデアをどんどん出してくださいました。「トラックの脇に観戦用の長椅子を置く」という案は素晴らしかったです。

 

 また、大会終了後の撤収作業に走り終わった選手や観戦に来てくださった応援の方々が率先して加わってくださっている様子を見て、心が温められました。もちろんこちらから強制したわけではありません。運営スタッフは勿論のこと、来場された全ての方々が一つになって作りあげる大会。私の思い描いていた理想の大会像に一歩近づいた気がして、感動が抑えられませんでした。

 

・レースは、出るのも、見るのも、支えるのも楽しい

 

 下は4歳から上は60代の方まで、幅広い年代の方にご参加いただき、改めて「走ること」が持つ魅力に驚かされました。走り終えて苦しいはずなのに嬉しそうにしている様子や、スタート前の緊張感をも楽しんでいる様子を見ていて強くそう感じます。

 競技レベルはもちろん様々。自己ベスト更新を目指す・一番を取る・完走する・楽しむ等々、レースに臨む目的も人によって異なります。「走ることの何があなたを惹き付けているのか」という問いに対する答えも人の数だけ存在することでしょう。

 

 観戦している人たちが楽しそうにいている様子も印象的でした。選手が気持ちよく走れるために整備した環境が、同時に観客をも楽しませるものにもなっている、という構造は中々興味深いです。

 運営スタッフの方々も、私の指示が明確でなかったり見通しが甘かったりと至らない点が多々あり、ご不便をおかけしましたが、総じてレースを支える役割を楽しんでくださっているように思いました。(私の思い過ごしで実は楽しくなかった、などあったらごめんなさい)

 

 今までは競技を「する」側でしか陸上競技を眺めてきませんでしたが、今回競技を「支える」側に立ってみたことで、陸上競技や「走ること」の新たな魅力を感じ、考えさせられる貴重な機会になりました。

 選手・観客・運営の距離が近く、相互の間の垣根が低い大会だからこそ、今まで「見る」側だった人がふと思い立ってレースに参加することができたり、走り終わった選手が運営の手伝いをしたりと、一つの大会の中で多様な視点から陸上競技を眺めることが可能になります。競技の新たな魅力を発見する機会にすることができることが、この大会が多くの人に支持していただけた魅力の本質ではないかと思います。

 

〇今後について

 

・今後のグラスロ

 

 核となるコンセプト(誰でも気軽に参加できる・来場者全員で作りあげる・選手、観客、運営の距離が近い)は堅持したまま、岩手の地の利を活かした独自の大会を作りあげていこうと考えています。具体的な案はまだ検討中ですが、今は地域の学校や大学と何らかの形で連携してお互いにとって有益な関係を築いていくことを検討しています。

 何をするにせよ、背伸びしすぎず、身の丈に合った無理のない大会設計をしていきます。何かアイデアがあればお気軽にご提案ください。無下にはしません。

 

 年内にもう一回やれればいいな、と考えていますが、コロナの状況次第です。コロナが落ち着いたら来年度以降は年に複数回開催していきます。

 

・目指す理想像

 

 グラスロにも通ずる個人的な夢があります。陸上競技場を、選手も観客も楽しめるエンターテインメント空間にすることです。私は「陸上のエンタメ化」と呼んでいます。

 

 プロ野球を例にとると、球場に足を運ぶ人の中には、野球をよく知っていて野球という純粋な競技を楽しみに訪れる人も当然いれば、最近では野球のルールもよく分からないけどお目当ての選手を見るために来る人や、球場で催されるアトラクションじみた演出を楽しみに来る人もいるでしょう。球場を一つのテーマパーク化(ボールパーク化)し、周辺地域も巻き込んで地域活性化の中心地にする、という手法は、最近であればベイスターズハマスタを中心に取り組んでいた事業が有名です。

 

 対して陸上競技を日本選手権を例にとって見てみると、陸上日本一を決める大会であるにも関わらず、観客席に空席が目立ちます。100mの決勝など注目される競技の時はメインスタンドがいっぱいになりますが、長距離などマニアックな種目となると、陸上を知らない人を席に止めておけるだけの分かりやすい面白さは正直ありません。

 

 もちろんプロ野球のようなやり方をそのまま陸上競技に当てはめれば良い、と考えているわけではありません。ただ、箱根駅伝陸上競技をよく知らない人をも魅了するコンテンツ性、エンタメ性を備え、日本の一大スポーツイベントになっていることを考えると、陸上競技にも方法次第で多くの人を集める潜在力があるのではないかと思います。

 

 陸上競技をもっと人を集められるスポーツに、俗な言い方をすれば「お金を稼げるスポーツ」に成長させ、それを競技者の競技環境充実のために還元していく、というマーケットの流れを作り出していくことが今の夢です。グラスロももっともっと多くの人を惹き付けられるような大会に成長し、関わる全ての人が楽しめる空間になっていけたらなあと思っています。

 

 

次回は第1回の反省点を踏まえ、さらにレースが面白くなるような工夫を施していきます。ご期待ください。